ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「魔女とカルトのドイツ史」浜本隆志

久しぶりにヨーロッパ中世の魔女狩り関係の本を読んでみた。
だいぶ忘れてしまったなあ…。私の魔女狩りの興味の発端は、「なぜ異端審問の盛んだった中世の中期や全盛期ではなく、終わりくらいになってから魔女狩りが盛んになったのか」という問いかけでした。それについてはある程度答えが出ていたと思うんですが(異端審問=宗教的事件、魔女狩り=世俗的事件という図式が出来ました)、改めて、ドイツから見た魔女狩りということでこの本を選びました。


この本の一つのテーマが魔女狩りで、もう一つはカルトなのですが、これらのルーツをたどっていくと、中世中期にあった、ドイツの集団妄想事件に根を発します。こども十字軍(大人の十字軍に倣って、こどもが自ら十字軍を組織し、妄信的に聖地に向かっていったはいいけれど、何もなすことができなかった)、狂信的異端狩り、鞭打ち苦行の練り歩き(自罰的な人たちが集まって鞭を打ちあいつつ救いを願った)、そして中世のペストの流行をユダヤ人の仕業と決めつけ、大量に殺害した狂信的な事件。こういったことが、魔女狩り、カルト、ひいてはナチスドイツにまで影響しているのだと言うことだと思います。


次にハーメルンの笛吹の話が載っていて、これも阿部先生の本を読んでいるので概要はよくわかるのですが、これを一種の集団ヒステリー、集団妄想としてとらえています。そのうちこの笛吹き男は悪魔とされていきます。


こういう、悪魔とか、魔女とか、土着的な、アニミズム的な、善悪をつかさどる神様はドイツのゲルマン神話の中にずっと息づいており、極論すればヒトラーもドイツのゲルマン神話に憧れがあったと言えるかもしれません。私はケルト神話のほうからの影響もあるとは思っていますが(そもそもどこからがゲルマン神話で、どこからがケルト神話なのか、私が分かってないのですが、ゲルマン神話の神として、ケルト神話の神が引用されているのを見て、両者の融合があったのではないかと思っています)、そういう、非キリスト教的なロマンに惹かれる人たちがいたことは確かで、ヒトラーもその一人であったと思います。まあ、ワーグナー大好きでしたからね、それはわかりますよ。


魔女の発生と魔女狩りについての章は、良く知られていることが書かれているので、軽く飛ばします。ただ、フランスやスペイン、スイスでも魔女狩りはあったのですが、一番ひどかったのは、南ドイツなのです。カトリックの土壌のある、地方の集落(村とか町)で、頻繁に魔女狩りが行われていたのだそうです。都市部では最初の頃はほとんど魔女狩りは発生しなかったそうです。
魔女の中には子供もいて(これは今まで私はあまり知りませんでしたが)かなりの子供が魔女として処刑されていったそうです。こどもは嘘つけないから、自分が魔女だなんて言わないと思うのですが、こどもの想像力は正直さを上回っていたようです。


カルトの話になっていくと、フリーメイソンやワンダーフォーゲルなどの話も出てきますが、やっぱりこの筆者の持っていきたかったところは、ヒトラー・カルトです。魔女からヒトラーにどうつながるのか、読んでいても判然としませんでしたが、集団妄想が迫害を助長したことに関しては共通点があります。


ヒトラーのところは適当に読み飛ばしてしまいました。今まで様々な事実を知ってきたこともありますし、ナチスがカルトとして成功していくための強固な地盤固めを側近が行っていたことも周知の事実です。そうして、世界を震撼させたヒトラー・カルトが形成され、ドイツ国民はそれに心酔し、ホロコーストなんていうとんでもないことを引き起こしてしまうのです。


ユダヤ人がヨーロッパの歴史上ずっと迫害されてきたのは、これも周知の事実です。彼らはほかの民族と溶け合わなかったし、キリスト教からは下賤な職とされていた金貸しをやっていたし、金貸しは恨みも買いやすいし、もっといろいろ理屈をつけると、イエスを処刑したのはユダヤ人だからということも言われています(ちなみにイエスはユダヤ人です)。でも彼らは、何かあるたびに、例えば天候の不良で農作物の不作があった時、ペストが流行った時、スケープゴートとして迫害されてきたのです。
その、ユダヤ人嫌悪が、ヒトラーの政策にも影響を与えていくのですが、ヒトラーの時代は人のうわさ話で迫害対象が決まっていくのではなく、印刷技術やラジオなど近代的なツールで自分たちの正統性を示し、広めてきたからたちが悪い。


この本の最後には、ドイツの基層文化とデーモンの噴出という章がありますが、主にゲルマンの神々の、デーモン化について書かれています。それはドイツのキリスト教の浸透に関係がありそうです。ゲルマンの冬至の日の祭りだった12月25日はキリストの誕生日とされ(諸説あります。12月25日がミトラ神の祝日だったというのが一番古い説でこちらを私はサポートしたいです)、夏至の日はヨハネの日とされました。こうした、夏至の日冬至の日は、平民が踊ったり火をたいたりしてストレス解消をする日だったのですが、それがだんだん規模が小さくなり、暴力的なことがなくなり、フラストレーションの溜まりやすい風土になっていったのだそうです。そしてキリスト教は戦闘的で、フラストレーションをためやすい禁欲的な宗教です。土着のゲルマン的な文化がキリスト教的文化にカバーされ、人々はいよいよフラストレーションの発散がしにくくなります。フラストレーションの発散の一つの方法が、集団妄想や集団による迫害だったのではないだろうか…となっています。


とてもすらすら読めました。実質1週間かかっていません。本も薄いし。
昨日は頭も目も疲れてしまって、ぐったりしていたのですが、この本だけは読んでしまおうと思って頑張って最後のほうはすっ飛ばしながら読みました。私にとっては魔女狩りの復習の本となりました。


いつか、私なりに魔女狩りをまとめてみたいと思っています。この本はその一助になると思っています。ヒトラーのところは使わないけれどね。集団妄想や集団ヒステリーという共通項でくくれば魔女狩りと同じくくりになりますが、ヒトラーはもっと組織的で、宣伝を利用し、新聞やラジオを操り、人類としてやってはいけないことをした。この人を扱うほど私はしっかりしていません。とても悲しくなってしまいます。


まあこれで、次の本に移れます。楽しかった~。次は何にしようかな。ポーか、モニエか、「幻想と怪奇」シリーズか。夏休みに読める本を用意しておかないとですね。まだ1週間あるからポーを読んでしまおうか。

×

非ログインユーザーとして返信する