ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「感応グラン=ギニョル」空木春宵

SFが読みたい2022年度版という帯のついている本で、2021年ベストSFで第3位になったSFだそうです。


私がこの本を見つけたのは、Amazonで、私の好きな昭和初期大衆文学を検索していた時、この本のレビューに、「 乱歩×橘外男×サイバーパンク×久生十蘭の不思議な世界」と書かれていて、それはSF大好きな私には面白そうな!!と思って買ってみたのです。私がよだれの出るようなラインナップ!!


いくつかの短編からできている本で、最初の「感応グラン=ギニョル」は新しい発想で、昭和初期浅草での見世物小屋の少女たち(彼女たちは何かが欠けている)と、感情のない、あらゆる人の感情の奥底を人に伝えることができる少女を利用して様々なことが起こる話で、これはまあまあ面白かった。


それ以外が、とんでもなく、痛い。女を、これほどかというほど、傷つけ、痛めつけ、焼き、はがし、とても読んでいられない。文体も定型文ばかりで、「こういう単語を使うと昭和初期大衆文学=新青年っぽく思えるだろうな」と考えてあえて使っている単語がいっぱいで、それが繰り返されているだけなので、文章での奥深さがなく、情景描写に立体感がなく、ただ痛い。苦しい。


私に痛みと苦しみを与えたという点では成功している作品ではあると思うけれど…あまつさえRampoの名前をタイトルに使うとは。しかも黒蜥蜴じゃなくて晧蜥蜴(しろとかげ)とか、オマージュなのか、パロディなのか?全然面白くなかったし全然乱歩なんか感じられなかったけど。


蛇になっていく女性の話なんかも、とても気持ち悪かった…。あと女性同士のからみがおおくて気持ち悪かった(女性同士の恋愛が気持ち悪いと思ったことはないけれど、この本で書かれている女性同士のあれこれは、とても心をえぐってくるものがあるのです)。


戦争中、隔離された女学院の生徒たち。彼女たちは生きながらにして徐々にゾンビになっていき、3年生になるころには意識ももうない状態で、手や足がもげ、肌が落ち、卒業式では全員が燃やされる、そんな世界も描かれていて。その女学校での女子生徒同士の関係と、崩れていく美について書いてくれれば、これはこれでいい作品になっただろうなと思うけれど、主人公はついにこの隔絶されてた女子学院の秘密を暴き脱出しようとする。そういうこと描くと俗っぽいというか、あの新青年の時代の作家たちが書きだした、あえて書かなかった「真実」を書いちゃうと、安っぽくなるという。あの時代の人たちは、結末を書かないことも多かった。結末への理路整然とした説明をしていたのは乱歩くらいで、後は読者の幅広い奥深い想像力によるものだったというのに。


なんだよもう本当に読んで損した。でも批判するには、きっちり読まなければ。
あのレビューさえなければ私は手にしていなかっただろうな。十蘭先生に失礼極まりない。


十蘭先生はそんなもんじゃない。あの天才にひっ迫する作家なんて今まで誰一人現れていないのだから。今後も、きっと現れないと思う。ヨーロッパの空気と、博物学的な知識がないと、十蘭先生の文章は書けないんです。


という、怒りの読書感想文でした。この本もブックオフ行きですね。ためておくと時間がたってしまうから、1冊だけ持っていってもいいですかね。


今は虫太郎を読んでいます。落ち着く~。楽しい~。もののあはれ…そして、好奇心と根性の日本人。こういう作品が好きなのです。


以上。

×

非ログインユーザーとして返信する