ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「葬送」平野啓一郎

単行本で全4巻。ショパンの話だというので、ヤマハでチラ見して、Amazonで購入。速攻読み始めました。


ショパンの話、というわけでもないのです。晩年のショパンと、それと並行に語られるドラクロワの話、芸術論、創作論、人生論、そんな感じです。もちろんショパンとドラクロワは仲が良かったので、二人が会って芸術論をぶちまけたりするシーンもあるんですが、基本的に並行して物語が語られているような感じです。


出だしはショパンの葬儀から始まります。
知った名前がいっぱいだけど、すぐ本編に入ります。本編はまだジョルジュサンドと生活を共にしている(一緒に暮らしていたわけではない)ショパンの話です。


ショパンについては、ジョルジュサンドとの別れにいたるいろいろな話が入っております。人間関係の微妙なところとかを語っているんですが…そもそもこの話が始まった時点で、二人の間には埋めようのない溝ができていて、結果的にジョルジュサンドの娘の結婚について、ショパンは「父として意見ができない自分の立場のもどかしさ」に悩むわけです。そうですよね、彼はジョルジュサンドの長男といってもいい立ち位置ですから。でもそれがきっかけで、サンドの娘の結婚に関して協力したことで、サンドの方から、離別を告げられます。


いろいろ読んでいて苦しかったですが、サンドもクレサンジュ(娘の婿)もめっちゃ悪人に書かれてて、なんだこりゃ中学生向けの本か?と思ってしまいました。サンドをここまで悪く書くこたあないだろうとおもうんですが、クレサンジュはただのヤクザでした。彼はサンドの娘と結婚して改心して仕事頑張ったんですが、最後まで悪人でした。でもショパンが亡くなった後ペールラシェーズの墓に彫刻を作ったのはクレサンジュなんですよね…。


4冊もかけて、じわりじわりと、晩年のショパンの物語に並行して、ドラクロワの芸術論や創作論が書かれていきます。仕事をしようと思ってもなかなかできない、そんなときの悩みみたいなもの。だれだってありますよね、これやろうと思うんだけど、どうにも重い腰が上がらない。それって、作者さん、あんたの経験でしょう??ドラクロワの経験にすり替えないでほしいな。


ショパンが死んでしまうところは電車の中で読んでいましたが思わず涙がこぼれてしまいました。この作品が良いのではなくて、死ぬ場面に弱い私のせいです。


全体的に、稚拙。これをこの作家が何歳くらいにかいたのか知りませんが、恋愛論に関しても、芸術論に関しても、いろんなものを調べて書いている感がいっぱいです。それから私はフランス人の習慣や音楽家としていっぱいばつをいれたいところがありました。
・フランス人はコーヒーは啜らない!
・ショパンの舟歌の最後は和音じゃない!属音から主音への解決だ!
・フランス人の挨拶は必ず健康を問うところから始まる!
・ショパンとドラクロワの性格が全く同じ!
・ショパンのワルシャワ時代からの親友の話がほとんど出てこない!
・マズルカの何たるかを知らない!ワルツにはならない!
・ショパンの曲は基本テンポルバートはない!全部計算して作られている!


もう書き出せばきりがないですが、フランスに住んでフランスの社交界にいってみなされ、といいたい。あとせめて楽譜は読んでほしいと言いたい。


記述に関してはショパンについてはドラマチック、ドラクロワについては資料研究という感じで書かれていたように思います。巻末に参考文献がのっていて、たくさん調べて書いたんだろうなと思いますが、過去のフランス文学を読んでいれば、あるいはフランス社会になじんでいれば、こんな時フランス人はどうするか、ということが分かるかと思います。そういう点で、「そこちゃうわ!」というところが目について、内容に入っていけなかった感があります。いちいちセリフを、これをフランス語で言うとどんな感じかなと点検して読んでいましたが、「これはフランス語ではこういういい方がないな」ということもあり、もどかしい感じでいっぱいでした。


ともかく私が文庫本で4冊もある小説を読むなんて珍しい話で、そのために多大な時間を費やしたけれど、あたりではなかったなと思います。ただ、批判するならば、最後まで読むことが大事と感じ、根性で最後まで読みました。


あまりに首をひねりながら読んでいたので、今度は単純で面白い明快な本が読みたいと思いまして、今度は横溝の「悪魔が来たりて笛を吹く」にしました。これはエンドが重いらしいですが、軽快な文章で、サクサク進むのがいいですね。グダグダと何とか論をぶちまけられ続けたらもう嫌になりますよ。
私は純文学向けじゃないんだな、大衆文学向けなんだな、きっと。

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