ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「文明の十字路=中央アジアの歴史」岩村力

私の西域趣味は、高校生時代、井上靖を読んでから始まりました。中国の向こう側に広がる砂漠地帯、草原地帯、高い山脈に囲まれる台地の遊牧民、なんかかっこいいなー。
それが昂じて私は「スキタイ文明」研究にのめりこむのですが、スキタイ文明は中央アジアの基礎となっている人たちです。そこのところを改めて再確認したくてこの本を手に取りました。


読んでみると、先史時代の中央アジアから、バクトリア、アレクサンドロス大王の遠征(ヨーロッパから中央アジアのかなり深いところまで入り込み、ギリシャ人社会を中央アジアに作っていったすごい人)、シルクロード、イスラム勢力の展開、チンギスハン、ウズベク王朝とロシア帝政、近代の東トルキスタン、近代のアフガニスタン問題、そして現代の中央アジア開発まで、大変時代的にも地理的にも幅広く取り扱っていて、これはすごいと思いました。


前提知識として、例えばサマルカンド、ブハラなどの主要オアシス都市がどこにあるとか、中国の王朝の順番と何民族が支配したかとか、トルキスタンはどこかとか、基本的な地形とか、中国からの西域の地名の呼び方とか、イラン系民族、アルタイ系民族、モンゴル系民族などいろんな民族が入り乱れていることとか、イスラムの歴史とかを知っていると、この本が読みやすくなると思います。私は結構中央アジアの歴史の本は読んでいるので、あと、地図を飽きるほど見ていて(特に歴史地図帳!)どの勢力がいつどこで興ってどういう風に衰退したかということを漠然と知っているので、この本でその知識を新たにすることができました。


しかしこの本、書かれているのが1977年。そのあとにソビエトが解体してロシアから小さい民族国家が独立していきました。ここに出てくる伝統あるキルギスやトルクメニスタンやウズベキスタン、タジキスタンなどの国が独立して自分たちの文化を守りながら頑張っている姿をこの著者が知ったらどう思うでしょうね。


本に戻ります。
先史時代は私が最も興味を持つことで、どの本にも、「先史時代に遊牧民族ありき」で話が始まります。この本もそうでした。どこから来た人たちなのかというのもよくわかっていないようです。でも、広いユーラシア草原を駆け巡って生きていた人たちが、紀元前10世紀くらいからいたことは確かだそうです。遺跡もいろいろ見つかっています。主に古墳ですね。シャーマニズムの世界だったようで、日本や中国と共通する埋葬の方法がうかがわれます。この本が書かれた1977年以降にも発見された遺跡がたくさんあります。先史時代の文明の流入は西方からのものだったようで、お墓の副葬品には西方から来たものが多かったそうです。
その後、いろんな民族が、中央ユーラシア(この本は中央アジアのことを書いていますが、地理的には中央ユーラシアです)を駆け抜けていき、オアシス国家を作り、破壊し、国家を作り、破壊し、の繰り返しです。日本のように1500年近く昔のものが残っていると言うことはありません。どんどん作って壊しの繰り返しなので、例えばサマルカンドのようなオアシス都市国家が残っていますが、ここは一度チンギスハンにめちゃめちゃにされているので、それ以前のものが残っているかどうかわかりません。
劇的な展開を見せる中央ユーラシアですが、今はイスラム教の人が圧倒的に多く(イスラム教が8世紀かそのくらいに入ってきたときには、税金がなくなるからという理由で改宗した人が多く、その伝統が残っているのだそうです)、私の想像する、雄大な台地の遊牧民とはちょっと異なっているようです。その辺の歴史も書かれていて、多分この本で一番理解しておかないといけないのはイスラム教の広がりと定着なのではないかと思います。もちろん700年代にイスラムは中国とも対決しました。イスラムの広がりというのは中央アジアの歴史を語るうえでは欠かせないのです。
インドも、北方は遊牧民の土地です。そしてイスラム教が流入しています。歴史的に中央ユーラシアを支配した勢力のある国は、インド北部からシベリア南部までを支配していたわけですから、そのあたりまでが一つの国となるのはすごいことです。インドとシベリアが同じ国?っていうだけでびっくりです。


入れ替わりの激しい民族ですが、読んでいて説明もなしに出てくる民族が結構多く、多分それを全部説明していたら一冊じゃ足りないんだろうなと思ったりします。例えばタタールという言葉が何の説明もなしに使われましたが、中央ユーラシアの歴史においてタタールはとても重要なのです。ヨーロッパから見れば、モンゴル人もフィン・ウゴル系もタタールになるし、中国から見たら突厥起源の韃靼人だし、使われる場面について定義が変わってくるものです。それが何の前置きもなしに出てきて、おや?そこは説明してくれなきゃ、と思ったりもしました。


この本の最後のほうは19世紀、20世紀のアフガン問題が取り上げられていました。ここは、ロシアとイギリスで取り合いしていた土地です。なんでイギリスが…と思われますが、インド=イギリスからしたら、ここはロシアの南下を食い止める重要な土地だったのです。そのためいろいろな思惑に翻弄されて、国が安定しません。今の時代でもそうですが、大国にいいように利用されて、部族間で対立が起こり(アフガンも単一民族国家ではなくいろんな部族がいるので、一部の部族はイギリスにつき、一部の部族はろしあにつき、ということがありました)、紛争が起こり、なかなかかわいそうなうちに少しずつ発展していく様子が書かれています。アフガニスタンについてあまり知らなかったけれど、大変勉強になりました。


この本が1977年にかかれたことを知らずに買ってしまったので、最近の歴史観での中央ユーラシア史が知りたいと、また関連する本を買ってしまいました。早くドストエフスキーを読みたいのですが、遊牧民の歴史のほうが先かな?


まあ、読書して音楽の勉強しなかったということは大いに反省して、今日から日曜までは音楽の勉強漬けになると思いますが、せいぜい頑張ろうと思います。

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