ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「虚無への供物」中井英夫

日本の3大奇書の一つと呼ばれているというのに、私ともあろうものが、今まで読んでいなかったんですね。幻想文学大好きな私が知らずにいたとは…。


ここの所小栗虫太郎が続いて、さらに今年発売した虫太郎の新しい本を買ってしまって、はたと、この3大奇書を私は制覇していないことに気が付きました。


3大奇書のうち、「ドグラマグラ」は中学生か高校生の時に読みました。以来、夢野久作ファンでもあります。いろんなところでモチーフとして使っています。そして「黒死館殺人事件」も、大人になってから読みましたが、小栗虫太郎は私が若いころはほとんど出版されていなかったので、ここ1,2年くらいでどっと出版されてきたのを知って、今買いまくっているところです。


奇書、とは言いますが、奇妙な小説というより、探偵ものの奇書ですね。これを書いた中井英夫は「アンチ・ミステリー」を目指したと言いますが、最初はなんのことやら、安っぽい推理小説やなあと思っていたら、もうね、これは推理小説ではないですよ!そんなもんじゃない、これほど人を惑わせ、現実がどっちなのかわからなくなるような、頭がくらくらするような作品はなかったです。


ともかく私自身散々いろいろあって落ち込んでいた私が1週間もかからず集中して現実逃避(読むこと)ができたほどの本ですから、面白い。


もちろん私も現代の推理小説も読みますが、正直比較になりません。
本の帯には、「史上すべての日本ミステリーの中で第2位」と出ています。一位は横溝の「獄門島」ですが、なるほどそれなら納得します。全然、現代ものとはスリルもワクワク感も記述の丁寧さも違うんですよ。


基本的に昭和初期が好きなせいか、現代の推理小説はみんな鋼鉄都市の物語に思えてしまうのです。でもこの小説は、1955年が舞台になっているんですが、まだ古き良き日本が残っていて、乱歩の香りがして、そして主人公その1が私の崇拝している作家と同じ名前。ちなみにその作家の作品を読んだ小説家志願者はたいてい筆を折るといわれています。


氷沼家の両親と叔父叔母が一辺に亡くなる船の沈没事故に端を発した氷沼家の兄弟、いとこらをめぐる殺人事件の数々。連続殺人事件と言ってもいいかもしれない。次々に巻き込まれていく氷沼家の関係者。果たして犯人は?


探偵気取りの主人公その1と、ワトソン君役の主人公その2が出てきて、多分主人公その2がこの作品を書いたということになっています。主人公その1のやってきたことは、無駄骨どころか、余計な犯罪を作り出してしまうような害のある事だったけれど、最後に事の真相を明らかにしました。正直、ズッコケ探偵に、核心を担わせたという感じがしました。だけどそれも正解、救いがこの物語には必要だったんです。ただの殺人犯探しではなく、もっと文学的意図のある作品、ヒューマニズムの見られる作品なんです。


まあ、感想文なので私が何を言っているのかはこの作品を読んだことがない人じゃないとわからないと思います。まだ読んでおられない方々へ。読み始めたら、止まらないと思いますので残念ですが時間を取りましょう。


あと、ちょっとは探偵小説の知識があると面白いかも。乱歩はクリアしたらいい、ガストン・ルル―もヒントになるかもしれません。あとシェイクスピアやドイル、ポーの作品にも通じているところがあります。


奇書、ですね、はい、間違いなく、「ドグラマグラ」や「黒死館殺人事件」に並ぶ作品だと思います。


次は何を読もうか…たまには現代作家の本でも読んでみるか…。でもこんな面白い本読んでしまったらもう次がないですよね…。
現実逃避できる本なら何でもいいです。
自分を失いそうな時間から離れられる時間を作れるほど面白いものなら寝食を忘れて読みたいものです。


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