ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「遊牧民から見た世界史」杉山正明

この本の前に読んだのが、「文明の十字路=中央アジアの歴史」だったので、そこで得た知識を定着させようと、時代や地域がオーバーラップするこの本を読むことにしました。


前の本が良くできていて、歴史資料に忠実に書かれているのに対し、この本は、歴史観の説教から始まり、最後の章なんかは全然遊牧民文化と関係ない著者の主義主張の大声での表明で終わるという…。結構時間かけて読んだんですが、この本、古いんですね。2003年に出版されているのだそうです。著者あとがきの書かれた日付は1997年だそうで、今では当たり前となっている「非西洋中心歴史観」「非中華王朝史観」を高らかに訴えているわけです。


なんだこの説教臭い本は。
という勢いで読み始めました。なかなか、ユーラシアの歴史が始まらない。地理的なこと?感覚的なこと?先入観みたいなことの解説が2章くらい続いて、やっとスキタイが出てきて喜んでいたら、すぐに匈奴の話。匈奴のところ、中国のあり方、中国の中華中心歴史観の否定(つまり漢民族の中国っていうけれど本当は漢民族の国家であったことや、統一されたことなんて言うのは歴史的には一瞬の出来事で、ほとんどの時間、異民族による国家や、分裂した状態だったんだと言うこと)ばっかりで、なんだかそんなことはとっくに知ってるよバカにしてんのかこのやろーという感じでした。


中国は、あの中原という土地に樹立した政権がそれぞれ「正しい漢の後継者」として、司馬遷以後はある王朝がそれ以前の王朝の歴史を記すわけです。例えば清の時代には明の歴史書が書かれるわけですが、自分たちが倒した(明に関しては自滅した)王朝を良く書くことはしません。だから当然ながら、正史とされている中国の脈々とつながる歴史書は偏見に満ちています。特に北方政策、西方政策についての失敗や、実は本当は自分の王朝がそっち側の出身だったりすることなんかは秘匿されていたりします。それは常識なんですけどね…。


この本は、モンゴル帝国を世界帝国、騎馬と陸の世界史の究極の形として書いており、そこで終わっていますが、元朝秘史だけによらず、ペルシャ側からの「集史」も参考にして書いています。たいてい、モンゴルの歴史となると、チンギスハンからだれがどの国を継承して、その次に誰がどの地域を掌握して、という話になるのですが、それはかなり難しい話で、この本ではその辺の説明はありません。でもどうしてそんなに分裂してしまったかを、私はこの本で初めて理解しました。モンゴル民族というのは、純粋なモンゴル人の国家ではなく、いろんな民族を取り込んで(破壊、略奪のイメージがあるモンゴル軍ですが、たいていは無血開城だったそうで、騎馬部隊が攻めてくると、オアシス都市や小国は恐れをなして反撃せずに降伏してしまうのだそうです)、いったんはモンゴルになったけれど、帝国の分裂と継承により、オリジナルの、もともとの民族の名前や集団単位に帰っていくのだろうと思います。そうは明示されていませんでしたが、多分そういうことだろうと思います。


モンゴル帝国の中で活躍したテュルクのことや、ウイグルの人のことなども詳しく書かれていましたが、モンゴルの懐の深さというのを感じます。今までのイメージは暴力的な征服だったのですが、そうではなくて、「仲間になるか?」と問うて、はいといえばその民族や国や都市はモンゴルになり、モンゴルはそうして広がっていったんだと言うことがわかります。ちょっといい風に書きすぎてますかね、本当はかなり暴力的な面はあったと思うのですが、そこは全く強調されていなくて、モンゴルが、多くの民族、宗教、文化を取り込んだ、陸の騎馬民族国家の集大成だと書いています。まあ、そうでしょうね、海まで制覇してますからね。


モンゴルのことについていろいろ詳しく知ることができて、どんな資料を読めばいいかもわかってきて、安心してこの本が終わると思ったら、また著者の歴史観の押し付けが1章最後に追加されています。西洋中心歴史観とかなんとか。その辺は適当に読みました。そんなことはとっくに知ってます。日本の高校で習う世界史が西洋から見た歴史になっていることや、中国を一つの地域の一つの国と扱っていることもよく知ってます。そんなことはどうでもいいんです。


ちなみにこの本をちゃんと理解するには、中国の歴史(中原の歴史と言ったらいいですかね)を一通り知っておく必要があります。なんの前触れもなく金だの遼だの出てきます。それがいわゆる中原から見たら北方騎馬民族の国家だと言うことを知らないと、著者の主張はわかりません。それからペルシャ事情、そちらのイスラムの動きなども知っていないと、わからないことが多すぎます。なので、中央アジアやユーラシアの遊牧民に興味を持っている人でもこの本は中級編だと思います。


私は中央アジアマニアで昔中国の歴史オタクだったのである程度知っているからわかりましたが、ある程度中央アジア史と中原の歴史を知ってる人向けですかね…あとはこの著者の歴史観に賛同できる人にはいいかも。


別に私はこの著者の言うことに反対したいわけではないんですが、主義主張にページを割きすぎていて、楽しめなかった、477ページもあるのに、「こういわれていますが、本当はこうなんですよ」的なことが多すぎて、遊牧民から見た歴史というのが入ってこなかったです。ただただ、疲れた。

杉山先生のほかのモンゴルに関する本に期待したいです。
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