ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「紺青のわかれ」塚本邦雄

あまりにすばらしすぎて、私の読書人生をこの年になってがらっと変えてしまい、今までの私の好き作家ランキング第一位に突然入り込んでしまったこの作品に対しては、感想なんてありません。唖然としてしまい、あほかというくらい読みました。


何をとっても素晴らしいのです。言葉選び、表現技巧、全体の構成、情緒、心の色の微細な部分、何で評価しても、この作品に匹敵する短編集はないです、短編の鬼(長編が読めないので、短編ばかり読んできた)である私が言うのだから間違いないです。


これは短編集で、短編は別々の時期に雑誌に掲載されたものですが、作順にタイトルの長さが一文字ずつ増えていくという、めちゃ凝ったことをしています。


それが、ひとつひとつがファンタジーのような力作の「これぞ日本文学」で、情景も人物もクリアに浮かび上がってきて、目が覚めるよう。流麗な文章とはまさにこのことを言うのだろうと思いました。


今までこんな素晴らしい文学があったのだろうか…。


時代は多分昭和初期だと思いますが、現代に読んでもなんの遜色もない。
あと作者の外国や絵画や音楽や演劇に関する知識が半端ないです。
私が作家になって何かを書いたら、このくらい海外の知識や絵や音楽の知識を入れたいと思うくらい、細部にこだわって、詳しいのです。音楽のオタクは色々いると思うけれど、絵画もこのくらいオタクで、外国語にも明るくて、って、なかなかいないのではないでしょうか。どういう経歴をたどったらこんな素晴らしい作品を書くことが出来るのだろうかと。


母に、この人知ってる?って見せたらとてもよくご存知で。
塚本邦雄さんは、短歌業界ではとても有名な方だそうで。
寺山修司と同じくらいの時代で、短歌の改革運動をしていた人?なんだかそんな感じです。最近の日本の短歌の流れはこの人から来ているんだそうです。その人が書いた散文はこれともう一つ、推理小説が残っているそうです。でもそれは読む気がしないんですよね。この短編集を超えるものがあったら、私の心臓が持ちません。


文章が、「新字旧仮名」で書かれているので、最初とっかかりは難しいかもしれません。元は旧字旧仮名遣いだったそうで、それがオリジナルなのだそうです。もう絶対読みたいです。発掘せねば。


今まで評価されていなかったのが不思議でなりません。言葉に凝っているだけの作家ならいっぱいいます(現代の人ではいないようです)。内容を凝ったものにして文章がダメな作家もたくさんいます。両方、ダイヤモンド級の人はこの人以外ないんじゃないでしょうか。


言葉がきれいなだけではなく、伏線がありまくりですべて綺麗に回収されていて、短歌の技巧を感じました。また、人間描写も素晴らしいし、内面にぐっさり刺さって日本の情緒を表現しています。設計図が明確で、計算し尽くされています。
言葉のこだわりはやっぱりすごいですね。韻文でそれだけの力量がある人が、散文をものしたらこんな風に奥行きが出てきて、時空が流れるんだなあと、ほとんど感涙の領域です。言葉の持つスピード感をうまく扱って、ここまでするかっていうくらい読者サービスが行き届いています。言葉のスピード感をじっくり味わえる作品は、芥川のはるか上をいっています。


一言で言うなら、ハイレゾリューション、でしょうか。


何でこの本を買ったかわかりません。いつも河出文庫の新刊をてきとーに買っていた、その中の一冊です。
河出文庫さんはずれなし!!いつもありがとう!!

×

非ログインユーザーとして返信する