ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「盲獣・陰獣」江戸川乱歩

河出文庫大好きだわ~。私の研究対象である昭和初期大衆文学をいっぱい出版してくれているからね。多分買っている本で一番多いのが河出文庫なんじゃないかな。


この乱歩の文庫本の2作品も、昭和初期に作られた作品です。1930年代です。「盲獣」のほうが時代があとで、「陰獣」の3年後の作になるそうです。だけど、なんでだろう、「盲獣」の方を先に掲載していますね。
「陰獣」は乱歩が休業宣言したあとの、回復第一作にあたるんだそうですが、その3年後に「盲獣」が書かれています。獣つながりで文庫にされたのかもしれませんが…。


「盲獣」については、くどくしつこく変態(ヘンタイではなく変態)の極みが書かれています。めくらの男の、美を求めるがあまりの、最高に美しいことを追及しています。めくらの男は目が見えないながらもレビューに出かけたり美術館に出かけたりしています。そんな中で、巷で噂のレビューの美人に目をつけます。不思議な、色彩と感覚と意識が混乱する部屋に連れていかれます。文字で書かれていても酔ってしまうような色彩と造形、平衡感覚を失いそうな、あふれるばかりの人体の造形へのこだわり、色の渦。そんなものが見えてきます。女性の曲線の美しさをもとに作られた部屋の床や、壁の人体の部分から、このめくらの男のこだわり、それを作らせた変態性癖が見えてきます。
ストーリー的にはそんなに変わったことはないんですが、女性の死体の一部が雪だるまの中に入っていたり、風船につるされて飛ばされていたり、そういうところに戦前の乱歩らしさを感じます。そんなことが今あったら、とんでもない、みんなスマホで撮影するんでしょうか。現代にそんな猟奇的なことが起こらないのが幸いですよね。犠牲者は何人か知りませんが、記述されているのは3人。同じような美人かと思いきや、それぞれ違った美人が犠牲者です。めくらだから顔の善し悪しはわかりませんが、按摩をして、身体に触れた感覚で美人かどうかを確かめて、混沌の部屋に誘います。
明確な話の筋がないので、この作品は、場面や、究極や、情景を楽しむものだと思っています。それでもインパクト十分で、文字で読んでいるのに目がくらくらしてしまいます。


「陰獣」の方は、とある探偵小説家が、お金持ちのご婦人から、かつての恋人に脅されているという相談を受けます。かつての恋人は、その婦人が、家でどのように過ごしているのか、全部事細かに知っているのです。かつての恋人がその婦人と主人を殺すという過激な手紙から、かつての恋人の存在を確かめようと、また、彼女を守ろうと、探偵小説家がいろいろ思索をめぐらし、ついには警察にうちあけたかと思うと、夫の方が川で死体となって発見されます。
一種の推理小説なのですが、ここに、かつての恋人かもしれない別の探偵小説家が出てきます。その別の小説家は、「屋根裏の散歩者」のごとき「屋根裏の遊戯」なる小説を書いていたり、「D坂の殺人事件」のごとき「C坂の殺人事件」を書いていたり、なんだこれ乱歩かと思わせるところがたくさんありました。
主人公の探偵小説家はある事実を突き止め、事件の全容を明らかにする申告書を書きますが、腑に落ちない点をさらに突き詰めて考え、まさかと読者が思うようななぞ解きをするのです。これが面白い。私もこの犯人は多分この人だと思っていたという予測がありましたが、うーん、この時代は男女の違いというか、男が女に化けたり、女が別の女に化けたりというのが、案外と容易にできるんだなあと、ひたすら感心してしまいました。
どんでん返しがあって、さらにどんでん返しがあって、最後は、ひっくり返し、という感じです。読みながら楽しくてしょうがなくなってきます。ご婦人の変態性癖も乱歩らしいです。この探偵小説家のモデルは甲賀三郎、姿を消した探偵小説家は乱歩のようですが、ちらちらと、そこらへんにそういう記号が埋め込まれていて、これはこれでエンターテイメント小説としては読者を喜ばせる配慮がたくさんなされていて、楽しめました。


薄い本なので一気に読めてしまいます。「盲獣」はちょっと気持ち悪いかもしれませんが、いや、トラウマレベルかもしれませんが、「陰獣」は一気に引き込まれ、急展開にジェットコースターに乗っている気分になります。


本当はSFを読もうと思っていたのですが、その本に合うブックカバーが見つからず、カバンにも入らず、持て余していました。最近家で本を読む習慣がなくなってしまったので、SFはピアノの試験が終わってから、読書習慣をつけて読もうと思います。もっと読みたい本いっぱいあるのよ、今日も面白い本をアマゾンで発見してしまい、ぽちりたい一心でしたが、もう今月は6冊くらい買っているから、そちらを早めに読んでしまおうと思います。何にしようかな。海外文学、私の専門の昭和初期大衆文学、鏡花のアンソロジーなどもあります。鏡花は難しいので、時間がかかりそうですね…ピアノが負担になっているのでせめて読書は楽できる楽しいものにしようと思います。

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