ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「紅殻駱駝の秘密」小栗虫太郎

昭和初期大衆文学ファンの私にとって、小栗虫太郎の、今まで知らない作品を本屋で見かけて、狂喜乱舞、無条件で購入~そして読破~!!


まずタイトルがいいですよね。紅鯨団じゃないけれど、紅殻?駱駝?なんですかこの色彩感覚のはっきりした秘密なタイトルは!!
これの秘密は読み進めていくとどんどんわかってくるのですが、色々とびっくりです。この作家の、初期の作品だというのに、なんという博識。洋学、和学、当時の心理学、フランス、音楽、革命期欧州についてよくよく理解しておられる。それぞれはさらりと一行くらいしか出てこないけれど、その背景には、しっかりとした知識の蓄積が見て取れました。そして、これが書かれたであろう大正期の探偵ものをいかに面白くしようとしていたか、大衆文学とはいえこうした探偵小説がいかに知識人の好奇心をそそったかが見えてきました。


そして、探偵にも言わせているのですが、想像力。大事ねこれ!曇りのない目で事実を見つめても想像力がなければ、要は理屈や理論ではかなわない感性でなければ、物事の面白さというのはつかめないんですよ。


小栗虫太郎の代表作といわれている「黒死館殺人事件」につながる探偵小説のフレームがここではすでにできていたんですね。でも、もっと粗削りな面白さがあります。主人公たちの個性は薄いです。でもいちいち犯人の候補になった人たちには、個性があり、彩りが非常に豊かで、黒死館をしのぐ名作なのではないかと、思ったりもします。


何より面白かったのは、シャーロックホームズは出てくるし、イエスは出てくるし、転々と殺人が行われていく中で、あるいはこの「紅殻駱駝」につながるものかと思ったら肩透かしを食らってしまった…と思いきや実は最後のどんでん返しで、そういうオチですか!という終わり方です。


私はこの時代の、第二次大戦の前の大衆小説が大好きで、音楽と同じくらいの人生のテーマになっています。定年退職したらどこかの大学の文学部に入って道楽で研究したいと思っているくらいです。この時代の人は、洋物の娯楽小説をよく読んでいて、若いのに原文で読むような人もたくさんいました。小栗虫太郎もシャーロックホームズくらいは原文で読んでいたようです。娯楽小説とはいえ、その端々にはインテリの影が見られます。その時代のヨーロッパが見えてきたり、世界情勢が見えてきたりするんです。だから、表面的に読んでいては面白くないかもしれない。想像力ですよ!娯楽小説といえど、馬鹿にできない、もっと文学的評価が上がってしかるべきだと思っています。


というわけで、もうね、面白すぎて、一気読みでした。うわあああしばらく余韻に浸りたい~でも明日からは、5月までの研究テーマにしている別の本を読み進めます。楽しみはそれが終わってから。Kindleに入っている小栗虫太郎読もう。


本って出会いですね。私の御用達の河出文庫なので、いつも河出文庫は端から端まで見てますが、よもやこの本が単行本になっていようとは!ふらりと立ち寄った本屋さんでの出会いに運命を感じます!!


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