ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「悪魔が来たりて笛を吹く」横溝正史

久しぶりに面白い本を読みたくて、勢いでアマゾンで頼んでしまいました。
いやーーーすかっとした。面白かった。


元はといえば、青酸カリによる毒殺の宝石店襲撃事件。
その容疑者とされた椿子爵の自殺。
椿子爵の作曲した「悪魔が来たりて笛を吹く」。


遺族や、戦災後に椿家に身を寄せていた人たちが、椿子爵を見かけたという話。
もうなくなったはずの子爵の吹くフルートの音が聞こえる!!


金田一が入ってから、どんどん人がなくなっていきます。この椿子爵の一族、玉虫伯爵一族、新宮伯爵一族。彼らが複雑に絡み合って、いろいろな過去が明らかになっていきます。どうして椿子爵は死ななければいけなかったのか、その裏にあったいろいろな出来事が、だんだん浮かび上がってきます。


今回のお嬢様方は、美人の設定ではなかったところが、なんだかリアリティがありました。いずれも旧華族のお嬢様なのですが、てきぱきとしていて、しっかりしている感じです。


しっかりしていなかったのは椿夫人とかかな、男女のあれやこれや、女の本能丸出しの、と言っても嫉妬とかそういうのではなく、女の性におぼれている感じですね。それがきっかけとなり、この物語の芯になってくる「いとこ婚」とか、貴族に無理やりはらまされるとか、そういう戦前の出来事が明らかになってきます。


どことなく薄暗い感じの金田一シリーズですが、この本はニュートラルでした。椿子爵は物語の冒頭ではもうなくなっていて、ほかの人が、7人なくなるのですが(決して殺人だけじゃなくて自殺した人もいるんです)、なんとも、奇妙さがないというか、おどろおどろしくもないし、びっくりでもないのです。


解決のヒントとなったのは、方言なのですが、これも、日本語学者の金田一さんの助力もありますし、本陣殺人事件からの付き合いの警部さんの助力もあります。


戦後の混乱期、例えば亡くなったとされてる人が、戸籍や名前を変えて、別人がその人になり替わる、なんてことはあったみたいですね。
そういえば東野圭吾でもそんな小説ありましたが、あれはぞっとしましたね…。


面白さで言えば現代の探偵小説、推理小説に比べたら断然面白い(私は昔書評を書くので、東野圭吾と京極夏彦はかなり読み込んでいるのです。彼らはトリッキーだけど、そんなところで勝負しなくても横溝は十分面白い)。わかりやすい。鮮やかだし、人が死んでしまう暗い話のはずなのに、金田一の鮮やかな解決を期待してしまいます。きっとこの人はわかって旅行に行き、わかってここを調査し、わかって、指のない人の観察をするのです。


いやあ…私は椿子爵は生きていてほしかったんですが、そうはいかなかったですね。でも納得のいく終りで、独語の清涼感が、人がたくさん死んでいるのに何ともすがすがしい感じが、ありました。


たまには読まなきゃ。っていうか死ぬまでに横溝は全部読むかもしれません。


やっぱりすごいテクニックとアイデアと、エンターテイメントですね!最高です!!

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