ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「アイヌと神々の物語~炉端で聞いたウウェペケレ~」萱野茂

母がアイヌに口承文学があると言っていたので、興味を持って買ってしまいました。いやね、うちには本が山になっているのですよ。部屋のクロス張替えのために今日も本棚から本を全部取り出して運んだんですけど、嫌になるほど、読んでいない本があるんです。それを先に読めっていうんですが、何よりも今すぐアイヌ文学を知りたくて買いました。


ウウェペケレというのは、おばあさんやおじいさん(主におばあさん)が囲炉裏端で子供たちに聴かせてくれる昔話のようなものです。これこそ私はアイヌ文学だと思っています。カセットテープで昭和40年代前後に録音したアイヌの小さな物語がたくさん収録されており、それぞれに萱野茂さんの解説がついていて、大変分かりやすく、楽しめました。この、編者?著者の萱野茂さんはもうとっくに亡くなった方なのですが、アイヌ人として生まれ、アイヌ語を母語として話し、アイヌ初の国会議員になり、アイヌ文化を日本に広めた非常に重要な人物なのだそうです。


小さな物語は、時には一人のアイヌの冒険の話だったり、一人の神様の人間との交流だったり、天地開闢とは言わないまでもアイヌがどうやって生まれてきたかという事だったりと、よく考えられた順番でつづられています。途中、また同じような話が続いてる、と思うかもしれませんが、それはちゃんと考えられて作られているのです。だからお読みになる方はもし飽きてしまってもちゃんと最後まで読んでください。分厚い本ですが。


人間は、幸せを祈って、アイヌの神様(たくさんいる。熊も神様)に贈り物をしたりします。ところが、神の方から要求することもあるのです。「自分たちを祭ってイナウをお供えしてください。そうしたらあなたの幸せを保証します」的な感じでお約束するのです。トレード関係と言いますか、お互いがお互いを認めて成り立っている世界観を見ました。
アイヌの有名な習慣は熊送りですが、これは狩猟で取ってきた熊を神様として送り出し、肉をありがたくいただく儀式で、イヨマンテと言えば聞いたことがある人もいらっしゃるのではないかと思います。この本には、イヨマンテという直接的な言葉は出てきませんが、何度も熊を神の国に送っています。ところが、人間に悪さをした熊は、神として送り出してくれないのです。散切りされてそこらへんに放置されるのです。こうして神にお仕置きをすることもあります。


いくつかあった話で面白いのは、恋愛の話ですかね。アイヌはアイヌと結婚し、神は神と結婚するのですが、神様がアイヌの娘に惚れてしまいます。そうしたら、どうするのがいいかというと、何か策をめぐらして、娘を殺し、神の国に連れてきて結婚するのがいい、と神は思うのだそうです。それで、娘に不幸が訪れます。神によって殺されようとするのです。それが、ほかの神様にみつかって、「精神のいい」若者などが娘を助け、ほかの神様が助けてあげたから自分を祭るようにという…みたいな話がいくつかありました。神様も結構わがままだなと。


アイヌの知恵が、物語の中にたくさん現れてきて、なんといいますか、自然と共存し、決して獲物を狩りすぎることなく、神と対等に(時には神様に脅しをかける人間もいます、でもそれは人間としての当然の権利なのです)、どんな人とも対等に、アイヌ世界が描かれています。こういうものを読むことで、例えば現代の環境問題とか、国際問題とか、あらゆる問題に、何かしら一石を投じることができるんじゃないか、と思ったりしました。SDGsがうんたらかんたらいいますが、持続可能な社会はアイヌの人たちが頑張って作ってきました。近代化に飲み込まれて今はアイヌ語もすたれ、ウウェペケレを語れる人もいない?のかな、いたとしても少数、というのはとてももったいないことだと思うのです。現代社会に生かせるヒントがいっぱい詰まっていると私は思うのです。


いい精神を持っている、という言葉が何度も出てきます。この若者はいい若者だから、と言いたいところを、アイヌ語の直訳では、「いい精神」を持っているということになるのだろうと思います。性格が良い、気立てが良い、いろいろ言い換えられますが、こういういい方を聞くと、人間の心の奥にともっている炎のようなものが精神で、それが尊いもののように思えてきます。人にも、神にも、動物にも、精神の炎がともっている、そんな暖かさを感じたりもしました。


とても分厚い本ですが、各話の後に解説がついており、それとともにアイヌの道具が一つずつ紹介されています。そして、このウウェペケレはとても限られた場所の、限られた時代の話でしかありません。和人の話もあります。本当はアイヌにもいろいろあって、分布もかなり広く、神様の送り方の違いや言葉の違いもあるのだろうと思いますが、アイヌ世界といいますか、アイヌ宇宙を覗き見るのにはとてもいい本だと思います。


京都奈良旅行中に私が読み終わり、母に持って帰ってもらいました。なので詳細は本が戻ってきてからまた書きたいと思いますが、母も楽しく読んでいるようです。
今度は神話みたいなものを読みたいなと思ったりしています。


読書感想文なので、いろいろ変だと思っても、あくまで私の「感想」なのでお許しください。稚拙な文章をお読みいただいてありがとうございました。

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