ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「大渦巻への落下・灯台」エドガー・アラン・ポー

新潮文庫で出ていたのを知らなくて、あれ、でもアッシャー家は新潮で買ったんだったっけかな、ともかく、この本の副題が「SF&ファンタジー編」だったので、ポーの時代に??それは知らなかった!!と、嬉々として購入してしまいました。


全7編。いずれも「これほんまにポーかいな」という感じの、19世紀にしては新しすぎるお話ばかりでした。


「大渦巻への落下」これはまさに大渦巻に飲み込まれて生還する話なんですが、ファンタジー要素があるとしたら、地球には大きな穴が開いていて、そこから内なる地球に行けるんじゃないかという予感をさせてくれるところでしょうか。描写は極めてまじめで、何とか大渦から生還しようとする様子が中心となっていますが、後世の作家に及ぼした影響は多大なのだそうです。


「使い切った男」ええと…ムーピーですかね。もはや人間の形をしていません。私の中でのイメージは手塚治虫のムーピーです。インディアンとの戦争で大変な功績を上げたけれど同時に負傷してしまった准将の、正体がそんな感じなんです。使い切った…となっているということは、これは、もう役立たずなんでしょうか。もう人間としての形もなしていないし人間としての仕事も出来なさそうな…ちょっとアイロニックですね。


「タール博士とフェザー教授の療法」精神病院を訪問する話です。19世紀初めの精神病院って、カオスなイメージがあるのですが、ここでは自由な診療方針がとられていて、それは非常にうまくいっていて…というのは全くの嘘でした。正気と狂気の判断を問われる作品です。


「メルツェルのチェス・プレイヤー」チェスをする機械の話です。ストーリーはないんですが、延々とチェスをする人形の仕掛けの話と、その中に人間が入っているんじゃないかという推測、でもやっぱり何も仕掛けがない機械だという方向に持っていかれていますが、これは現代のAIを思い起こさせますね。人工知能が世界のチェスのチャンピオンに勝つのは20世紀も終わりの方の話です。それを予測していたかのような話。ちなみにチェスの人形はトルコ人なのです。


「メロンタ・タウタ」これぞSF。2800年代の、気球に乗って空で生活する人たちから振り返った過去の歴史なんかを書き連ねています。いろんなパロディが入っています。過去の哲学者のパロディがあったり、地理も現代のものとは違った名前で語られています。月に都市があることも書かれていて、そこで生活する者たちについても書かれています。これは「2001年宇宙の旅」を彷彿とさせる作品ですね。


「アルンハイムの地所」大富豪の広大な庭園の話。未来庭園?決して未来の風景は出てこないんだけれど、その景色の描写は壮大で、それを一人の人間が所有しているという空想的なテーマがなかなかすごいと思いました。特にストーリーはなく、描写が延々と続くのですが、淡々としていて、そのすごさ、うけついだ財産のすごさが伝わってきます(現代の価値にして8兆円の資産を受け継いだんだそうです)。


「灯台」これが、問題作です。4ページと2行で終わってしまう話です。主人公が灯台守になった1月1日から日記をつけ始めます。たった一人、犬一匹の、孤独な灯台守、海には何も見えず、ただ高い白い巨大な建物に一人、1月3日までの日記はつけられているのですが、そこでは孤独を満喫している様子が描かれています。翌日、1月4日と書かれて、その後が空白なのです。これはポーの未完の作品と言われていますが、多くの人がこの未完の作品に魅了されたのでした。1月4日に何が起こったのか、孤独な灯台守とは何を意味するのか。


とても薄い本だったのですぐ読んでしまいましたが、いわゆる推理小説家とは違ったポー的面白さがあると思います。この本に収録されたSF・ファンタジーは、後世に多大な影響を残したそうで、とても19世紀初めの方の想像力では発想出来なさそうな物語ばかりでした。すごいな~。


こんな面白いものが書ける人になれたらなあ…。

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