ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「ゴシック文学入門」東雅夫

乱歩にはまったのは若い頃なんですが、最近また乱歩熱が上がってきて、アマゾンで物色していたら遭遇したのがこの本。ゴシック文学って何だろう。ということで買って読んでみました。


中身はいろいろな人のゴシック文学的なエッセイ?評論?でした。この東さんという人はまえがきと解説しか書いていないです。
どんな人の論があったかというと、トップに乱歩、八雲、種村、紀田順一郎、澁澤龍彦、塚本邦雄、日夏耿之介、八木敏夫、富士川義之、平井呈一、野町二、前田愛、再び日夏耿之介、最後に高原英理が、主に海外のゴシック文学作品と呼ばれているものに言及しています。
幻想文学というものには興味があって、私が若い頃には結構読んでいたのですが、私の知らない、もっと昔の、1800年代から続く幻想文学がいろいろあるそうで、大変興味深く読めました。知らない作品で読んでみたいのは「ヴァテック」とか「オトランド城奇譚」とか、もっと基本に帰って「吸血鬼」「ドラキュラ」「カーミラ」あたりもじっくり読んでみたいなと思いました(そうしてまた私の未読本が増えるのです…)。


このエッセイ集の中で、ものすごく興味を惹かれたのは前田愛さんの書かれた「監獄のユートピア」でした。監獄と、ゴシック文学の何が関連があるんだろうかと謎ではありますが、この人はすごく物知りで、明治時代の政治史や政治小説というのをしっかりとらえていてわかりやすく説明してくれています。日本の監獄の歴史もちょっとありました。で、西洋では、中央に看守のいるところがあって、放射状に牢獄が並ぶつくりなのですが、そういうつくりを日本も取り入れている?由来みたいなことが描かれていました。この、中央に円形になにかがあって放射状に道路が伸びるみたいなのは、パリの街がまさにそうで。パリはオースマンさんという人がナポレオン三世時代に都市計画を打ち出して、今のあの広場を中心にした放射状の大通りという街の形を作りました(その時にたしか屋根の色とかも指定されたんだと思います。パリのアパルトマンの屋根は灰色と決まっています)。日本も、震災後に東京の復興計画としてパリをまねた放射状の街づくり案があったらしいのですが、いろいろなもろもろな事情で(主に政治勢力の争い)そうはいかず、昔ながらの街道を生かす街づくりになったのだそうです。
それで、肝心の、監獄のユートピアがゴシック文学とどうつながっていくのか、私には全然読めなかったのですが、監獄ものの小説(昔のヨーロッパの監獄もの)の恐怖から、近代の開かれた明るい放射状の監獄に転換したことがメインに書かれていて、これはゴシック文学が云々以前に大変面白い話でした。


一方で、このエッセイ集の中で、此畜生二度と読むか!と思ったのは日夏耿之介の「高野聖の比較文学的考察」でした。文章が読みにくい。高野聖はよく知っていますが、これも大きな目で見ればゴシック文学に入るとみて選者が入れたんだろうと思ったら、鏡花と、海外のゴシック文学作家とされる作家たちを比較していろいろ書いているんですが…あまりに私の知らない人ばかりでさっぱり理解できませんでした。もっと高野聖の内容に即した論なら楽しく読めたんでしょうけれど、海外の、良く知られていない作家(私が知らないだけかもしれない作家)との比較論は、めんどくさかったです。一日1行くらいしか読み進められなかったくせに、この本の中では一番ページ数を使っていて、うーむ…と思いました。


ゴシック文学というのはいわゆる18~19世紀くらいにイギリスを中心に流行った幻想的怪奇的な小説のことを言うのだそうだけれど、良く知られているものでは「吸血鬼」とか「フランケンシュタイン」とかも含まれるのだそうです。そこには、ゴシック建築のお城や牢獄が出てきたり(監獄というのも重要なモチーフだったらしいです)、それまで語られてきた幻想的な伝承や言い伝えとは異なる、サスペンス的要素が入り込み、現代の恐怖小説やSF小説の源流になったとも言われているそうです。何となくそんな理解です。でもポーもゴシック文学に入れられているし、現代にもゴシック文学作家という人たちがいるらしいです。つまり、当時の文学だけではなく、その要素を持っていれば(例えば、お城、宿命、怪奇現象、廃墟、幽霊、人外のなにか)ゴシック文学というのだそうです。


この本は入門にするにはさらっとさらいすぎていてちょっと不親切かもしれません。特に先に挙げた高野聖の論なんかは、ない方が本としてはすっきりまとまったと思います。なので、いろいろ読んで知ってますよ、という方が、改めて「あれ面白かったよね」と再確認するにはいい本なんじゃないかと思います。


最近買った本というか雑誌のリバイバルで「幻想と怪奇」というのがあります。今6号まで出ていて、早く読みたいんですが…もっと読みたい本がいっぱいあるので、しばらく積んでおきます。


ポーも読みたいけど、次はフィッツジェラルドです。

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