ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「黒蜥蜴」江戸川乱歩

乱歩の本はいろんなところから出版されているから、どれにしようかな~ということであれこれ見てみたのですが、春陽堂が「江戸川乱歩文庫」というのを出していて、お値段も手ごろだったので、買ってみました。


文字も大きく、大変読みやすかったです。中学生くらいであれば読める文章の平易さと、内容。いや、人間の皮を引っぺがして人形を作るとかは中学生的発想ではないですが、ほぼエロティックなシーンはないし、グロテスクなシーンもないし、探偵ものとしては、わかりやすくて漫画的なトリックで、想像しやすかったです。


推理小説というと私は20年くらい前に京極夏彦をたくさん読み(仕事上読まないと行けなかった…)、10年くらい前に東野圭吾もたくさん読み(これも仕事上読まないと行けなかった)、ああいうのが推理小説=探偵小説だと思っていたのですが、乱歩の「探偵小説」には、探偵が出てきて事件を解決していくという明快な筋があるだけで、推理する部分はほぼないですね。この「黒蜥蜴」も、読者の推理力を掻き立てるシーンというのはなくて、明智小五郎が、黒蜥蜴が、お互いがどんなトリックを使っていくかということが淡々と描かれています。


何とも魅力的な貴婦人「黒蜥蜴」。美しいもののコレクターであり、その対象は宝石などだけではなく、人間にも及びます。ターゲットはダイヤかと思いきや、もう一つありました。そのもう一つのターゲットをめぐって、明智小五郎が策をめぐらします。明智君はこの「黒蜥蜴」なる人の本質を早々に見抜いており、すべてを取り返しますと宣言します。そうして、それが現実になっていくのですが、その中には、変装や、すり替えなどのトリックがあり、誰が明智君なのかを楽しみにしながら読めました。
そうそう、明智君には手下がいたのですね。具体的に誰とか、キャラクターは書かれていないのですが、素人探偵なのに部下がいるという設定は初めて知りました。最終的に警察が出てきて、結末はちょっと美しい感じになります。どうもこの「黒蜥蜴」を憎めないところがあるんですよね。それは多分明智君も憎めなかったからだと思います。それが良く伝わってくる文章と、構成と、展開でした。


この本を読もうと思ったのは、この本がフランス語で出版されており、私のフランス語の先生が読んだことがないというので、先生にこの前本をあげたのです。で、あげた私がストーリーを知らないのでは議論にならないと思い、あげた次の日に買いました。江戸川乱歩はともすると現代のライトノベル的な軽さがあるので、ライトノベル大好きな先生も読めるかなと思って先生にあげました。いやいやでも、ライトノベルとは全然違いますよ?乱歩の背景にくっきり浮き出してくるポーやドイルの影響は否定できません。ちゃんとした西洋の推理小説・探偵小説・怪奇小説などの下敷きがあって、文学評論などもできる力のある立派な文章をものする文学者だと思います。


もし乱歩の明智君シリーズを読みたいのであれば、この作品の前に「人間椅子」を読んでおく必要がありそうですね。まあトリックとしては素人でもわかる簡単なものなのですが、この本の中でちょっと「人間椅子」のことに触れられています。実際椅子(ソファー?)はキーになっていたりします(をっとこれ以上はネタバレになるのでやめよう)。


驚いたことに、あの三島が、この作品を戯曲にしたのだそうです。最初はバレエにしようとしたそうなのですが、結局は舞台作品に。あの三島由紀夫が惚れ込んでそこまでしようとした作品であるって言うことだけでもすごいと思うんですけどね。読んでいて場面展開が想像しやすく、確かに舞台用台本がすぐ書けそうな雰囲気はあります。


江戸川乱歩文庫は13作品出ているそうです。
明智君作品では多分この「黒蜥蜴」が最高傑作になるんじゃないかと思いますが、ほかの作品も読んでみたいですね。

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