ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「文章読本」三島由紀夫

誰かの作家の文章読本を読もうと思っていたのですが、文章の上手さの好みとしては三島だったので、この本を買いました。
漢字による文学(男性の文学)、仮名文字による文学(女性の文学)によって表現する内容が違っていたことは周知のとおりですが、この本はそのあたりから入っていって、二葉亭四迷以後の文学作品の文章についての鑑賞案内をしてくれています。


小説の文章として短編の文章、長編の文章について書いてくれていて、あまり短編を書いていない(はっきり言って短編が上手ではない)三島由紀夫が短編をかなり芸術作品として高く評価してくれていることがわかりました。短編小説というのは、本来なら海外では詩になるところを、技巧を凝らして、おちつきでまとめたり、納得のいく見事な結末でまとめたりしている、それがすごいというのです。そういう意味では近代日本の文学作家というのは圧倒的に短編作家が多いんじゃないでしょうか。
次の節で長編小説の文章について書かれていましたが、そこで三島は、「日本には長編小説はない」と言い切っています。例えば源氏物語は長い小説だけれど、エピソードをいくつかまとめたものに他ならないし、そういった、エピソードまとめタイプの小説はたくさんあるし、歴史小説のように人物や出来事に焦点を当てて表現していく小説(これは文学作品には入らないのです)はありますが、本当の意味での長編小説(ロマーン)は日本ではまだ表れておらず(現代の日本においてもそうだと私は思います。村上春樹だって長編文学作家ではないという認識です)、世界でも、長編小説の文章を持っているのはドストエフスキーとか、バルザック、ゲーテくらいではないかといっています。おっしゃる意味よくわかります。この人たちの作品と、日本の、長いだけの小説(文学作品じゃない場合もあります)では、全然違うんです。長編小説の文章を書くというのは、短編のように宝石を加工してアクセサリーを作っていくような工程ではなく、もっと違った頭の使い方、気の使い方が必要なんだと思いました。


翻訳の文章についても一章割いてくれていたのは嬉しいですね。私は海外文学をよく読みます。そういう時に、翻訳がいいとか悪いとか、漠然と、自分の生理的な反応で判じることはありますが、それは、翻訳によって入ってきた西洋的思考が反映された近代現代文学に慣れているからわかることなのだと言うことがよくわかりました。


ちょっと意見が合わないのは、小説の技巧のところで、行動描写を軽視しているところです。私が尊敬してやまない、神と思っている作家のH大先生は、行動だけで、日本人のわびさびや悲哀、運命の不思議なめぐりあわせに翻弄される人々の心情を表しています。その意味では本当に天才だと思うのですが、三島由紀夫はH先生の本は読んでないんですかね。まあ、日本で一番最初に世界で認められた作家だから読んでいないとは思いませんが、西洋文学かぶれっぽい三島からしたら、時には大衆文学に分類されるH大先生の作品は文学作品として認めていなかったのかもしれませんね。いやー浅いね!H大先生は、西洋文学で重視されている心理描写なんかしなくたって、様々な色みを書き出してみせる天才なんですけどね。


最後は三島由紀夫がどういう態度で小説を書いているかという話になりまして、例えば「僕」という言葉は使わないとか、「彼女」は使わず名前を使うとか、そういうこまこましたことが描かれていますが、その方法論は豊饒の海まで受け継がれていきます。この文章読本が書かれたのが昭和34年、それから一貫して三島流の書き方をほとんど変えることなく作家として活動していくことになります。その三島流の文章は本当にきれいだなと私は心から尊敬しているのですが、ストーリーテラーとしての三島由紀夫はあまり評価していません。豊饒の海シリーズ以外は、あまり面白くないのです。それは私の側に、三島由紀夫を読み解く高い芸術的センスがないのかもしれませんが、自分がパリで日本文学を教えていたころも、三島作品あんなにたくさんあっても文学作品の教材として使えるのは「潮騒」「金閣寺」くらいでした。


いろんな文章を引用して紹介してくれていますが、その中で興味を持った本を探して読んでみようと思ったりしています。嫌いだった鴎外も、短編小説家としてじっくり読んでみたら面白いかもしれないと思っているところです。


次は何の本を読もうかな?日本の古典にも興味があります。母が日本古典文学のサークルをやっていて、いろいろ読んでいるらしくて、教養として必要だなと思う以上に、いにしえの日本人の思想や思考や行動を知りたいなと思うのです。記紀から読むのがいいのでしょうけれど、それやってたら残り少ない人生のほとんどが日本文学で埋まってしまいそうです。


Amazonで漫画4冊買ってしまったので、それを読んでから次の本考えます。一日で読めるかな?昨日1冊漫画を読んだのですが、寝っ転がりながらだともう字が読めない。かすんでしまって、乱視がひどくて、全然ダメです。寝っ転がりながら本や漫画を読める特殊な眼鏡、フレームが少し曲がってももとに戻るような眼鏡、ないですかねえ…あったら買います。

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