ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「魔の山」トーマス・マン

約4か月かかって、読みました。途中挫折しそうになりましたが。
主人公が、ちょっと気分転換に3週間ほど療養に、いとこの療養しているサナトリウムに行きます。で、たいした病気でもないのですが病気が発見されて、療養所で多数の死者を見送りつつ結局7年も滞在するのです。
療養所ですから、退屈なものです。最初のほうは本当に退屈でした。どんな人がいて、食事のときにどういう席に座って、どういう休養の仕方をして…上下巻で出てますが上巻はずっとそんな感じで退屈極まりなく、特に事件も起こらず、同じ療養所のイタリア人文学者がちょっとアクセントになってくれて、まっさらで特になんの思想も持たない主人公にいろいろな思想を植え付けようとしてくれます。


主人公もだんだん自分の意見を持って議論ができるようになってくる、と言っても、この物語に登場する先のイタリア人、その論客イエズス会元神父などの思想ほど深くは考えておらず。この二人の議論は20世紀最初のころの思想を反映していたように思いますが、イエズス会元神父のほうがものすごく理論を積み重ねた上で到達した二元論を持っていて、曲者だなと思いました。


20世紀の初めに、こういう思想を持っていた人たちがいた、ということがまた驚きでした。20世紀初めですからいろんなことができるようになっているはずで、科学の発展や政治の高度化、帝国主義やら民族主義やら出てきて、芸術の問題も民族の問題と重ねて考えられていただろうし、神学の問題も大きな方向転換を迫られていた時代だったのではないかと思いますが。


ところで、こういうふうに、まっさらな青年が、様々な人や出来事の影響を受けて成長していく小説のことを「教養小説」というのだそうです。私はそういう本をほかに読んだことがないので、最初この物語が情景描写に徹していて、主人公やいとこの考え方に触れないことにちょっと不満でした。でもそういう書き方があるのだと解説にあったので、それはそれで納得しました。


下巻になってくるといろいろ事件も起こって、ここが「魔の山」であることがうっすらとわかってきます。ここは死を感じさせる、死の山なのだろうと感じました。病人が来るから死ぬ人も多い、というわけではなく、健康な人でも死に追いやってしまう、そんなところなんだろうなと。
いとこはいったん兵役でこの山を下りますが、また帰ってきてしまい、病状が悪くなってなくなってしまいます。静謐な死に、ちょっと泣きそうになりました。そして、誰かが死ぬと待っているのは機械的な病室の消毒作業です。そして、あたらしい病人が入ってくる。そしてその人は死んでまた消毒して新しい人が。その繰り返しです。主人公はそれを7年も見てきたわけです。


主人公が影響を受けた人物が3人います。2人はすでに説明したイタリア人とイエズス会元神父、もう一人が、オランダ人で、主人公のお気に入りの女性と一緒に入所してきたおじいさんです。このおじいさんの発言は、何言ってるかわからない…具体的な思想や行動パターンや人間性が描かれていないのに、主人公はこの人を一番としています。でもこの人は自殺してしまうのです。


変った医者もいたし、二人の論客というか、教師のやり取りは面白かったし(イエズス会元神父は決闘がもとで自殺してしまうのですが、彼はほとんどテロリストでした)、途中冬山にスキーに一人で出かけて嵐にあって帰れなくなるところがあるのですが、ここはハラハラしました。結果的に嵐はそれほど長時間続いたわけではなく、無事に帰れたのですが、私だったら心細さでとても正気ではいられないなと思いながら読んでいました。


交霊術なんかもやってましたね(こっくりさんです。こっくりさんて発祥は中世ヨーロッパなんですってね)、病人たちの療養生活は退屈ながら何かしら出来事が、ありました。蓄音器がもてはやされたり、何かとパーティーをやってみたり、ちょっとしたことが、療養生活の中ではアクセントになっていたようです。


そんな世界に、本当は3週間だけ滞在する予定だった主人公が7年もいて、結局は戦争でこの物語は終わります。療養所には、ちょっとだけ、戦争につながりかねない政治的情報が上がってきていましたが、主人公はそれに興味がなく、終わりの方まで政治的なことや戦争に関連することはなかなか出てきませんでした。そしていざ戦争が始まって、主人公は山を下り、兵隊になって戦う場面で物語は終わっています。


私はこの物語の主人公のような空っぽな人間は理想的な人間だと思っています。わざわざ空っぽに仕立てたのでしょうけれど、欲もなく、自己否定もなく、自己肯定もなく、何となくふわりとしていて、状況を観察する目は持っている。朴訥なドイツ青年という感じなのでしょうか。わざとそういう風に作ったんでしょうね。


いやー。私だったら療養生活とか耐えられないですけどね。人の生死を7年も見守るなんて絶対無理。病気でも山を下りて働く方を選びますよ。


はーーーー。
超めんどくさかった!
もっと面白い本が読みたい!
でも、苦労して読んだだけあって、心には残りました。この作品が完成するのに12年かかっているのだそうですが、完成したのが48歳の時だそうで、マンはそれ以後もたくさん作品を書いているそうです。ほかの作品を読んでみたいとは思いますが、教養小説というやつは、しばらくいいかなと…。

今日はピアノの練習をさぼって読書してしまいました。読書は私にとって心の栄養というか、なくてはならないものなので、止めることはできません。でも、今回すごく苦労したので、読む本は選ぼうと思います。
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