ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「幻想小説とは何か 三島由紀夫」東雅夫編

三島由紀夫が、幻想小説について何か書いたものではありません。東さんという人が、三島文学の中で幻想小説に関連のあるものをまとめたのがこの一冊です。今年7月にあとがきが書かれていることから、出版されたばかりなのでしょう。


大変面白かったです。
最初のほうは三島由紀夫の習作かと思われる幻想的な小説。幻想文学といっても日本の古典の、雨月物語とか、そういう流れを汲んでいる小さな説話が多かったです。あと、明らかに泉鏡花に影響されたような不思議な話もありました。でもどの話も私の心には響かなかったです。


三島由紀夫は好きですよ。日本の文学の最高峰は何かと言われたら、私は迷わず三島由紀夫の「豊饒の海」4部作を挙げます(この作品も、ある意味幻想文学ですね、輪廻転生を扱っているものですから)。だけど、三島作品って、ほかはあまり面白くない。丁寧だなとは思うし、日本語がきれいだし、登場人物の細かいところにわたっていろいろ書かれているので、とても優秀な人だとは思うけれど、あまりこれといった作品はないですね。美をかくには谷崎がいたし、雅やかであればすでに超えられない芥川がいたし、人間の心という観点ではまた超えられない漱石という人がいたから、そういう人たちと肩を並べる何かが三島由紀夫にあったとは、私は思ってません。


私が日本語を教えていたころに、「潮騒」「金閣寺」などはやりましたが、うーん。面白いと思って教えていなかったので、印象に残ってません。


戯曲もありました。こちらの方が、鏡花の影響が大きいなと見ました。ホタルやキノコがしゃべったりするのは面白いなと思いました。なかなか、メルヘンチックではないですか。三島由紀夫が書いたとは思えないくらいです。役どころどうするんだ?って話になりますね。


次に、澁澤龍彦との対談、澁澤龍彦への手紙が掲載されていました。私は澁澤龍彦はかなり読んでいるので、三島由紀夫が澁澤龍彦に、どの本について何を述べているかというのは手に取るようにわかって、非常に面白かったです。三島由紀夫は、褒め上手ですね。すごい敬意が伝わっています。対談やこの後続く評論で、稲垣足穂のことにも触れられていて、高校生くらいの時によく読んでいた私は大変懐かしくなりました。日本文学の講義をやっていても名前は出てくるけれど、作品を具体的に分析することはなかったですね。でも、今読みなおしたらどうだろう、感動してコメンタリーの題材にしてしまいそうです。


最後に評論集。「本のことなど」とか、何かの本に書いた解説とか。「文章読本」からの抜出で鏡花と鴎外の比較をしていました。っていうか比較になってないんですけどね、それぞれの良いところを述べただけになっていて、きっと三島由紀夫っていい人だったんでしょうね、ネガティブなところ、足りないところを決して言わない。鏡花は正直言ってわかりにくくて回りくどくてめんどくさいところがあるし、鴎外は1を書いて10を知らせる能力はあるけれどストーリーとかは正直言ってあんまり…だし。そういうことには触れず、あくまで「文章読本」として、文章の特徴をあげて、評価軸の一方に鏡花を、他方に鴎外を持ってきて、対照的だと比較しようとしていたように思います。これを読む前に、ブロガーさんに、「文章読本」で鏡花と鴎外を比較しているよと聞いたので、早速購入してしまいました。でもこの本に掲載されていたので、二重買いですかね…まあでも、三島由紀夫の文章読本は一度読みたかったのでじっくり読んでみます。


評論の最後の「小説とは何か」が一番面白かったです。バタイユも評価してくれていて、「マダム・エドワルダ」と「わが母」について詳細な分析をしていたけれど、残念ながら私は「わが母」を読んだことがなくて、すぐに読みたくなりました。もう絶版でしょう。ほかにもいろいろな興味深い作家を引いてくれていて、中にはSFも引用して、この評論が書かれた晩年にわたって、この人はたくさん本を読んできて、小説家の社会的・芸術的立ち位置を良く理解してきて、本当に日本文化に殉じた人なのだなと思ったりします。


「本のことなど」では、お勧め小説家として堀辰雄をあげています。三島は、近代文学の「人」の系譜として鏡花ー荷風ー潤一郎ー春夫ー辰雄という流れを示しています。理解してあげたいけれど、私、全員を読んでいるわけじゃないので、わからないです。でも、読みたくなりました。佐藤春夫と堀辰雄はほとんど知らないので、ちょっとこれから読もうかなとアマゾンでポチポチ…する前に、今ある本を読んでしまわないと。
ほかにも、ジュリアン・グラック「陰鬱な美青年」なども読んでみたいと思ったりしました。アマゾンで探したけれど文庫本は出ていないみたいですね。あと訳者が三島が読んでいたのとは違っているからどうかなあ…。でもかなり興味あります。買っちゃうかも~(本当は今日靴を2足も買ってしまったから、本はしばらく買わないと心に誓ったところではあったのですが)。


三島は、いわゆる「大衆小説」にはあまり明るくない人で、最近の人、時代の人にはあまり注目していませんでした(読んでいたけれどこれと思う人がいなかっただけかもしれません)。今の村上春樹とか読んだらどう思うんだろうなあと…文芸の衰退を嘆くんじゃないかと、思ったりしました。


三島由紀夫という大看板の小説家が、幻想文学にこれだけ傾倒していたんだ、ということが良く分かる一冊でした。
東さんという、編集した人は、アンソロジスト、というのだそうで、つまりたくさんアンソロジーを出している方なのですね。それを知らず、つい最近アマゾンでぽちったのが「ゴシック文学入門」これも同じ東さんのアンソロジーでした。引き続きこれを読むか、ほかの本を読むか、悩んでおります。


次は現代文学かSFかな。ゴシック文学はお楽しみに取っておきたい…多分読んでしまったらいろいろ買いたくなってしまうので、ちょっと退屈な本程度のものを読んだらいいと思ってます。これから11月22日まではピアノとヴィオラの日々なので、読書にはあまり力を入れないようにしないと。

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