ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「巨匠とマルガリータ」ブルガーコフ

20世紀のロシア文学の名作です。上下巻2冊。


いやーーー痛快!面白い!深刻なテーマなんていらないで読める、ロシア文学の最高峰ですね。いやもちろん、ファウストが入っていたり、キリスト教の根源的な問題が入っていたり、プーシキンやドストエフスキーの影響もみられるので、そういう目線で読めばそれはそれで面白いですが。


時代はいつかわかりませんが、1930年代かそこら辺の、舞台はモスクワ。ある文学団体の編集長が、ある人物の小説を否定した、ということは書かれていませんが、多分それが事の始まりなのです。その編集長と、友人の詩人の前に、不思議な人物が現れます。編集長の死を予言し、それ以外にも先のことを予言する。


ある人物の小説の内容は、本編の間に挟まれています。内容は、ポンティオ・ピラトゥスのことです。2人の前に現れた不思議な紳士は、「そんなん、会ったことあるし」といいます。クリスチャンでない方はご存じないと思いますが、ポンティオ・ピラトゥスという人は、イエスがエルサレムに着て、イエスの処刑を決定した(本当は決定したのは民衆です)人物なのです。お祈りの中にもその名前が出てくるので、私らクリスチャンは子供のころから知っている名前です。つまり、2000年ほど前の人物が、イエスを処刑にしたことについて、思うところがあるという小説なのです。
本当は同時に処刑されるバラバという人物がいました。恩赦でイエスかバラバのどちらかが処刑されることになるのですが、どちらにするか、民衆に問うたのはピラトゥスです。まあ、どっちが処刑されていても、イエス・キリストになったか、バラバ・キリストになったか、同じような物なんですけどね(多分パウロ・コエーリョはこの意見に賛同してくれるはず)。で、その話の筋書きは、私たちが知っているピラトゥスの行動とはちょっと違っています。彼は、イエスを処刑したことに対して苦悩します。そういう裏の筋書きが、この本のところどころに挟まれています。


時代は20世紀のモスクワに戻ります。編集長は、女性が油の壺をひっくり返し、それに足を滑らして線路に落ち、電車にひかれて首を飛ばされて死んでしまいます。不思議な男=魔術師の言った通りでした。


その魔術師はまた別のところに顕われます。劇場の主任みたいな人に近づき、明日から劇場に出る契約を魔術を使って結ばせます。その主任は一瞬にして千キロ以上離れたヤルタに飛ばされてしまいます。
劇場では、確かにその魔術師の出番はありました。お札を降らせ、女性に素敵な衣装を提供し、劇場はてんやわんや。
まあ結局そのお札はただの紙、素敵な衣装は霧となって消えてしまい、魔法は解けましたが。


この魔術師とその仲間たちは、死んだ編集長の家を拠点にして、ほかにもいろんなことでやらかします。欠けた眼鏡男、赤髪の男、そして巨大な猫をあわせた4人が仲間で、お手伝いの女性も加わります。


そして、巨匠が、1巻の終わりの方で登場します。詩人は、友人編集長の突然の死とその予言者がいてその通りになってる!とのたまったために精神病院に入れられてしまいます。そのお隣さんがテラスを通って遊びにきます。その方の名前が「巨匠」です。やっと登場です。彼は精神病院の独房のカギを持っていて自由に行き来している(と言っているが本当はそうではないことが最後にはわかります)、変わった人です。その人の話では、自分は小説を書いたが、出版社に拒否されて、そこから精神をおかしくして入院したのだということです。その小説が、ピラトゥスのことだったのです。もう燃やしてしまった、というのです。


その間にも魔術師たちは色々やらかして、パーティーを開きます。その女主人に選ばれたのがマルガリータ。彼女はやっと2巻になって出てきます。彼女は巨匠の愛人で、巨匠に会うことと引き換えにパーティーの女主人になり、魔女になることを引き受けます。ちょっとここは私は読み違えているかもしれませんが、魔女になってからの行動が、痛快でした。


ほうきに乗って空を飛び、巨匠の作品を否定した編集局の局長の家(ビルの高いところにある)を破壊しまくり、あっちこっち好きなところを飛びまくり、おまけに侍女もマルガリータの部屋の下の住人(なぜか豚になっている)に乗って飛んできて二人でいたずらしまくり。


きゃっはーーー!!気持ちいい~~!!っていう感じでした。


まあ、そんなこんなでモスクワの一晩がぐちゃぐちゃになります。
大きな黒猫は追い詰められて拳銃で撃たれても全く命中していないし、結局編集長の部屋に居ついていたところ、そこを火事にして逃げてしまったんですけどね。
彼ら(魔術師たち)は拠点としていた、死んだ編集長の部屋が火事になると、空に向かって出ていきます。一帯は火事になって大変なことになります。


マルガリータは魔女になった代償に巨匠に合わせてもらいます。巨匠は魔術師に会います。小説家で、ピラトゥスのことを書いている。魔術師は、どんなんだい、というので燃やしてしまった原稿を復元します。それで内容を理解した魔術師は、死にゆく巨匠に小説の完成=ピラトゥスに言葉を与えるチャンスを与えます。


巨匠がピラトゥス本人に、時代を超えてかけた言葉なのですが、万人に通じる、誰にでも通じる、素晴らしい言葉だと思います。そしてそれは、ロシアに、ソビエトに、共産主義社会にかけられた言葉なのだと思います。


この小説が書かれたのは、ブルガーコフの晩年(生まれは1891年)、1940年くらいで、ソビエトはいろいろ大変なことになっていた時だと思います。それまでの彼の作品も検閲を受けたりして発禁になったり、戯曲も上演禁止になったり、あまり恵まれた作家生活ではなかったようです。日本でも知られていないですが、これほど文学的に深い見識があり、面白く読めて、希望やメッセージ性のある作品はないんじゃないかなと思います。


さらりと読めば、ロシア風ファンタジー小説です。黒猫が立ってしゃべったりしますし、魔術師や魔女が出てきます。いたずらし放題、いろいろな「禁」を破っていきます。それが痛快で気持ちいいんです。それぞれにちゃんとした意味があるのでそれを紐解いていくのも面白いですが、キリスト教的な背景や、歴史的背景が隠されていて、なるほど~~~と感心すること多数。


痛快で面白く、主人公たちはあまり活躍しませんでしたがあんな魔術師たちが東京に現れたら面白いだろうなと思います…そういう小説を自分でかきますかね。


さて次は、いよいよ村上春樹かな…でも横溝読みたい…一冊くらい脱線してもいいかな?だって先月衝動買いで7冊も本買っちゃいましたからね。


ともかく今は眠すぎるので寝ます。おやすみなさい。

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