ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「本陣殺人事件」横溝正史

「本陣殺人事件」は金田一耕助事件簿の最初の一作と言える作品でしょう。


この本には3本の中編が含まれています。その大部分が「本陣殺人事件」でした。これはなかなか奇怪な登場人物や、昔ながらの家柄とかしきたりとかいうことがトリックの一つになっていて、私は中盤くらいでこれはひょっとしたら…と思わせるところが多くて、つまりヒントが多くて、なかなか理解しやすかったです。トリックもいわゆる機械的トリックで、それに琴の糸が使われていたという話、ちょっとここは現実的ではないのですが(琴の糸ってそんなに長いのか?でもいつも琴の横にぐるぐる巻きになっているから長いのかな?)なるほどと思わせる、前置きといいますか、伏線が張られていて、推理するのが楽しかったです。
この物語には、殺人者の共犯者が現れますが、その人は探偵小説マニア。こういう人物を、横溝正史はどこかで出したかったでしょうね、多分横溝正史自身が探偵小説マニアだったように思います。この物語は完全密室殺人なのですが、やっぱり完全密室の古典「黄色い部屋の秘密」が引かれています。ほかにもカーとか乱歩なんかも出てくるのですが、完全密室で機械的な仕掛けではない話は私は「黄色い部屋」しか知らないので、まあこれが出てきたときにはちょっとヒントになりました。
多分これは外部犯行ではない、つまり、殺されてしまった人たちは、誰かの恨みを買って殺されたわけではないということが大体見えてきたわけです。


結果的に機械的トリックが使われていて、まるで外部犯行のように見せかけてはいるのですが、そしてそれに利用された旅人?のような人もかわいそうな使われ方をしているのですが、読んでみるとすっきりと筋が通っていて、なんとも明快でよく考えられている。


ううーーーん。面白い。
この物語が、「獄門島」の前に来る話なのですね。時代設定的にも「獄門島」より前ですから。


2作品目「車井戸はなぜ軋る」。これはこのタイトルを頭の片隅に置いているとなかなかすっきりわかるような感じです。ある双子のようなそっくりな2人が戦争に行くわけですが片方しか帰ってこなかった。さてそれはどちらなのか。A=Bなのか、A=Aなのか、B=Bなのか。ここで読者をA=Bのほうに読ませておいて、実はそうではなかった、という結末に導くのが本当に上手で、ただ私は疑い深いので、単にこれがA=Bの入れ替わりトリックだったら単純すぎるからそんなことはないと思って結局手を休めることなく読み切ってしまったのですけれど。あっという間に読み終わり、種明かしも明快で、ううーーーん!!


3作品目「黒猫亭事件」これも、A=Bなのか、A=Aなのか、B=Bなのか、はたまたCも登場して、短い作品なのにものすごくいろいろ頭を使いました。面白かったです。本当は犯人の一人だと思われていた人も、結局は時間をかけて死への道を用意されていたわけですからね。ちょっと無理があるなと思うのは坊さんが人殺しをするかということなんですが、まあ、その辺は、女性にそそのかされたら何をするかわからない人もいるというところで納得して。


この作品の冒頭は、横溝と金田一の邂逅の場面となっています。金田一は横溝が作り出したキャラクターではなく、横溝の外で生きて働いて私立探偵をやっている現実の人間として書かれています。最終的にこの事件も金田一が解くのですが、邂逅のシーンでこんなことを言っています。


探偵小説の分類として「密室殺人」「一人二役」「顔のない死体(被害者が誰かわからない)」のトリックがあると横溝は分類したことがあるんだそうです。


思い返してみれば、たいていの探偵小説はこのどれかの形に分類できます。さて、じゃあこの作品はどうなのだろうか。最初に顔のわからない状態にまで腐乱した女性の死体が掘り起こされるところから、顔のない死体トリックに分類されるような感じで、いろんな女性が候補者として出てきます。戦後のごたごたで、特に中国からの引揚者の中に該当する人がいるんじゃないかなど、思うところは広がるのですが、この話は、それだけでは済まなかった。今までの探偵小説の定石を破るような、二重構造が見て取れます。私はそのトリックには真ん中くらいで気が付いて、これはひょっとしたら3分類のうち2つを使っているなとあたりを付けたのですが、種明かしを読んでみると、なるほど~~~~~。ううううううーーーん。


いずれも暇つぶしに気軽に読める程度の長さ(本陣はちょっと長かったですが)で、勢いで読んでしまうと細部まで頭に入ってきて、いろんな伏線がきれいに回収されていることがよくわかります。だらだら読んじゃいけませんね、1作品に時間をかけずにしっかり読むのが面白い読み方でしょう。


そうそう、読み方の順番ですが、私は「獄門島」の次に「本陣殺人事件」を読みましたが、順番的には、「本陣殺人事件」が最初、次が「獄門島」それから「車井戸」「黒猫亭」といって次に「八つ墓村」かなと思っています。戦争を挟んだトリックというのが生かされているのはどの辺までなんでしょうかね、戦争というのも、横溝作品ではトリックのブラックボックスみたいになっているような気がします。私はまだまだ横溝初心者なので、どうなっているのか楽しみです。またこれからも、時々、横溝作品を読んでいこうと思います。金田一全作品制覇には10年くらいかかりそうですが、今かなり好きな作家になってしまったので、本当に制覇するかもしれません。


次はもっと血なまぐさくないのを読もうと思います。
まだ本の山は崩れませんねえ…。

×

非ログインユーザーとして返信する