ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「スキタイと匈奴 遊牧の文明」林俊雄

私はかつて高校生くらいのころからスキタイ文化に興味を持っていて、金でできた動物の造形品や冠や帯、馬具などがきれいだなあと感激していました。もともと中国の歴史を勉強していくうえで、「騎馬民族」とか「遊牧民族」に興味が出てきて、そのうちスキタイは本当に興味の中心になりました。この本は、2016年に文庫で出された本で、前々から買ってあったのですが、満を持してこのタイミングで読めた感が強いです。
いよいよ本の山も、自分の本当の興味のある部分に突入したかなという感じがします。


スキタイとは、紀元前8~4世紀くらいに中央アジアを駆け回った遊牧騎馬民族で、文字や都市を持たない集団だったために、詳しいことが残されていません。国家として成り立っていた証拠もないし、文明として認められるほどの刑法や政治システムがあったかどうかもわかりません。ただ、お墓をたくさん残していて、たくさんの金銀細工製品、土器や色の石や鉄器などを残しています。
文字に書かれた歴史に出てくるのは、ヘロドトスの「歴史」なのですが、その時代にはスキタイはギリシャの影響を受けていて、スキタイの起源をゼウスの息子としたりヘラクレスとしたり、ということが伝わっています。ですが、それらは皆後付けでしょう。
スキタイと呼ばれた人たちは、紀元前8世紀くらいから、中央アジア、黒海からシベリアのほうまで分布していたそうです。国家はなかったですが、王政があったか貴族がいたか、支配者階級があったようで、その人たちの大きなお墓が残されています。この本の著者は、スキタイの時代は、騎馬民族にとっての「古墳時代」と言っています。


古墳はロシアに多いのですが、だいぶ盗掘され、古墳が盛り上がっているからその上に大砲が建てられたりしたこともあったのだそうですが、ロシアになってからどんどん新しい古墳の発見、発掘が行われてきており、文字として残されたものはなかったのですが、土器や中国製の鏡やギリシャ風の陶器などが発見され、草原を広く駆け回りいろいろな地域の影響を受けていたということが分かって来たそうです。


匈奴は、皆さんご存知の通りですが、紀元前3世紀ごろにシベリア・モンゴルあたりに現れた遊牧騎馬民族で、スキタイとの直接のつながりはありません。が、似たようなことをしているので、スキタイの風習が一部匈奴の人たちに引き継がれた面があるかもしれません。匈奴については、中国人がたくさん資料を残してくれているので、ある程度国家として成り立つくらいの簡単な法制度があったことや、支配者階級がいたり、王の名が伝わっていたりします。匈奴は、ちょくちょく中国の辺境を荒らしていましたが、奪っていくのは財宝ではなく人と家畜だったそうです。人と家畜を北方に連れ去って、農業をさせて、匈奴の人たちの食べ物を作らされていた可能性があるそうです。匈奴は中国を悩ます大きな存在でしたが、これも時代とともに姿を消してしまいます。


この本の最後の方で、「フン族は匈奴の末裔か?」という章があります。これについて著者は明確な答えを与えていないのですが、私は広義では末裔ではないかと思っています。フン族も、歴史では大々的に取り上げられていますが(ゲルマン人の移動を引き起こしたというので)、実体はそんな大したものではなく、ちょっとした騎馬民族集団だったようです。それが短期間の間でゲルマン人の住んでいた地域に移動してきて、押し出されるような形でゲルマン民族がヨーロッパにやってきて、長く移動を続けた、というだけのことで、フン族はあまり大したことはしていません。


あまり細かく言うと難しくなりますが、スキタイと匈奴とフン族をつなげて考えるのは私は違うと思っています。それはそれぞれの語族が違う可能性が高いからです。スキタイはローマギリシャ化していたり、黒海付近の民族の影響を受けていたりして、インドヨーロッパ語族に入るのかもしれませんが、それは仕方なしにそうなった、活動するうえで共通の言葉を使うとしたらそれしかないから、ギリシャ語を使ったかもしれない。でも匈奴とフン族は語族が違うそうです。


この本は、考古学的な記述が半分くらいを占めていて、カラー本だったら本当に面白かっただろうなと思います。考古学、楽しそうですよね。どうしても考古学だとエジプトや中国やメソポタミアですが、中央アジアの考古学を日本で研究している人がいると知っていたら、私はそちらに進学していたかもしれません。そのくらい、スキタイは好きです。まあ私の好き嫌いは置いておいて、2000年以降の発見も掲載されているので、私がコレクションしているスキタイ文化に関する本は1990年代のものが多くて古いので、あたらしい発見がたくさんありました。
この本で、また、著者は、彼らの多様性を物語っています。遊牧して馬に乗って戦っていただけではなく、匈奴のように中国から知識人を取り入れたり、農民を連れて行って農耕をさせたり、もちろん商人としてもあちこち出かけて行っていろいろなものを広めたりもしていたようです。宗教的にも寛容で、彼らの末裔の造った国では、義会員にキリスト教徒もイスラム教徒もユダヤ教徒も等しく存在したらしいのです。


歴史の表舞台にはあまり出てきませんが、遊牧騎馬民族は、その裏で、文化の伝播役を担っていたし、ギリシャ・ローマ、中国などに影響を与えていたのです。ロマンがあるよな~と思ってしまいます。


とても読みやすく、面白い本だったので、興味がある方はどうぞ。私は俄然興味が傾いてしまい、参考文献に紹介されているような本も読んでみたいと思っています。
何より、エルミタージュ美術館に、今すぐいきたいです。シベリア・コレクションを見たいと思ってしまいました。
ロシア語…読めるんですが、意味が分かりません。発音は頑張ればできますが、日本語にはない発音が多いので、練習しないとできません。今はロシアは英語通じるのかな、何年か前にモスクワを通った時に航空会社の人が全然英語話せなくて困ったことがあったので、ちょっと心配ですが、次に海外に行くなら、エルミタージュ美術館でしょうか。


しばし草原に思考を飛ばしました。一度、ユーラシアの大草原に行ってみたいものです。行くの大変だろうけれど…。

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