ひまわり畑を夢見るブログ

44歳の時、乳がんの診断。ステージ2。手術して抗がん剤とホルモン治療。仕事と治療の両立の生活記録を残します。

「神話学入門」松村一男

神話学の学説史です。
神話については、神話時代から研究されてきたと言ってもいいほど、古い時代からいろんな人が言及しているから、ローマ時代の詩人やアラビアでの伝承なども知りたいなと思っていたのですが、この本は、19世紀と20世紀の、6人の神話学者(本業は神話学者ではないかもしれない人も含む)の学説を述べています。


神話、というのは何なのか、いわゆるギリシャ神話やローマ神話(ローマ神話は存在しないと思います!伝説はあるけどね!)、メソポタミア神話、日本神話など、創造の物語・神代の物語、エピソードだとは思いますが、伝説と伝承と昔ばなしとどう違うのか、いまいちわかっていませんでした。


でも、神話って、良く見てみると、世界的に共通する何かがあるように思うのです。そういう目で私はいろんな神話を読んだり伝説を読んでいますが、世界で共通する何かがあるのか、という問いに答えてくれる本を探していました。


ですが、この問いに答えられる本はまだないようです。というか、そう感じて研究している人はいるのだけれど、まとまっていない様子です。それはなぜか。神話が、学際的な学問だからです。語学、文学、歴史学、宗教学、民俗学、地理学などを横断的に勉強してやっと見えてくる、かなり土台のしっかりした学問で、その土台を、作り切れていない、と私は感じました。


というわけで内容の説明です。
19世紀の神話学と20世紀の神話学が明確に分けられています。19世紀の神話学は、どこの神話にも共通する何かがあるはずだという考えの元、「インド=ヨーロッパ語族」の優越=白人、アーリア人の優越を前提に、主にインドの神話との比較が行われていたように思います。


紹介されていた学説は、マックス・ミュラー、フレイザー、デュメジル前期が19世紀型神話学に入ります。


デュメジルは分水嶺で、前期と中期以後では違っていて、前期は19世紀型神話学に分類され、中期以後は20世紀型神話学とされています。


20世紀神話学は、構造主義と、心理学に特徴づけられるそうです。私は実は構造主義のことをよくわかっていなかったのですが、この本を読んで、初めて構造主義がわかりかけました。音韻の構造解析を、神話にも適応させたレヴィ=ストロースと、ルーマニア人研究者エリアーデ、アメリカで北米インディオに興味を持っていたキャンベルについて述べられています。


内容は網羅的に学説の移り変わりが述べられていますが、神話の分析の仕方としては次のようになります。


ミュラーとフレイザーは自然現象を神話の主たる要因と考えました。ミュラーは神話の起源を太陽の運行をはじめとする天体・気候現象に求めたのに対し、フレイザーは植物のサイクルという地上の現象に求めています。中期以後のデュメジルは社会集団が神話を生み出す、という立場をとっていました。エリアーデは神話の中の歴史主義を批判して、理想は、無時間的で不変の、神話を規範として生まれる「古代社会」に置かれていました。レヴィ=ストロースはいうまでもなく構造主義的に神話を分析し、主に南米の神話を集めました。彼とキャンベルは、神話を人間の無意識の内的メカニズムに基礎を持つとする点で共通しています。


「おわりに」にあった文章をちょっと変えて書くと上記のようになります。本当のところ、具体的な神話をあげてもらって、その要素について、どう解釈するのかという話も聞きたかったですが、この本では例として出てくるのはオイディプス、南米の神話、アラビアンナイトのあらましが挙げられていた程度で、あくまで「学説史」がメインであったと思います。だけど、具体的な分析がなくとも、ある程度各地の神話や伝説を知っていると、あれのことをいってるんだな、ということが分かって、結構楽しかったです。私は特に前半の19世紀神話学が人種優越主義寄りだった時代の、ギリシャ神話とインド神話の共通点を探すような学説があった時代のことが述べられていたところで、高校生の時に「ラーマ―ヤナ」と「マハーバーラタ」を読んでおいてよかったと思いました。


20世紀の神話学が言うには、神話というのは何も古代のものだけではなく、現代でも神話は作られ読まれている、と。その代表的な作品が、ジョイスの「フィネガンズ・ウェイク」だそうで、私はこういう作品があることをはじめて知りました。「ユリシーズ」すら読んだことないのですが、今になってなるべく早く「ユリシーズ」読もう!と思いました。


こんなところでまとまっているかしら。大変興味深い本でした。短いのですぐ読めると思います。神話学は私には向いている学問かもしれません。
あーでも肝心の日本神話について私はよく知らないので、やっぱり記紀を勉強したいですね。

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